日付を書き忘れた夜用の日記から

最近、朝にウォーキングを始めた。

大体のことが、いつもふとした思いつきだから

どうして始めたのかはうまく説明できない。

 

ただ、後からいろんな理由が

続けるために生まれたように思う。

 

私は小さい頃から眠りが浅いほうで

ここ数年は3時間くらいで目が覚める。

いつもは絵を描いたり、ストレッチをしたりして

もう一度眠くなるのを待つのだけど

5時ぴったりになったら家をそっと出て

1万歩歩く事を始めた。

大体1時間半。

 

5時半にゆっくり周りが明るくなっていく前までは

取り巻いている世界は冷んやりと薄暗くて

ほとんど音がしない。

 

私ができることは

足を動かして進むこと。

頭の中だけが手持ち無沙汰がピークになって

騒がしくなってくる。

 

色々な声が小さな脳みその銀河から

思考の中に落ちてくる

流れ星みたいに取留めが無い。

誰かがその流れ星の瓦礫を大慌てでかき集めて

どこからか現れた大きな棚にしまい直そうと

奮闘してる。

 

私はその間も歩き続けて

ぼんやり薄暗い道の突き当たりを見てる

弱く雨がふりだして

より一層内側と外側の境目が曖昧になる

 

流れ星に乗って

もう忘れてしまっていたことが

ふと大声を上げながら迫ってくる

 

母の声だ。

 

「りんちゃんは私の宝物」

 

「もう一回やり直せるなら、

またりんちゃんと出会って

1番初めから一緒にいたい」

 

その時に思った。

私にとって歩くことは夢を見ているのと

眠っているのと同じ。

人は眠りの中で記憶や思考を整理する。

いらないものやいるものを引っ張り出して

並べ直して

ゴミ捨てだってする。

これはすごく大切なことで

眠りが少ない私は

いつもごちゃついている

自分の頭の中が心配だった。

 

でも今、私の切り離された沈黙の中で

あらゆる記憶がランダムに想起されて

もう一度再考して、新しい名前と

居場所を探している。

 

母は、生き物が苦手だ。

昔からそうだったと言った。

世話するのも好きになるのも苦手だと。

 

だけど少し前

りんちゃんを「宝物」だって言った。

そして多分、家族の誰よりも

りんちゃんのことを思いやって、

お世話をして、全ての時間を捧げていた。

 

りんちゃんの事を話すと

胸が一瞬でいっぱいになって

1秒後には涙をこぼす姿を

もう数え切れないくらい見た。

 

私は歩きながら

「ああ、こういうものを愛というんだ」

そうふと思ってた。

看護学生の時に愛は技術だと教わった。

その時は理解できなかったけど、

今少しわかったところがある。

 

人は愛とは何か思い浮かべた時に、

自分が愛される事を考える。

どうすれば愛してもらえるのかを考える。

 

誰かを好きになった時の薔薇色の風景や

感覚を愛だという。

でも多分これらは、寂しくも

生理現象の興奮状態なのかもしれない。

 

つまり

愛は多分、「愛する」ことなんだと思う。

それで、

これはただすごくシンプルな技術なんだ。

「今この瞬間、それだけに集中すること」

一人の、一匹の、一つの…そのものだけに

全神経を集中させて向き合って、

何ができるか考えて

それを実行すること。

そして集中し続けること。

これが愛なんだってふと思った。

 

歩いている間、

夢見心地のような

眠っている時にしか許されないような

あんまりにも不確かな星を

観測し続けていると思った。

 

いいんだ。

私は眠っている。

 

家に戻って、

汗びっしょりのまま

フロムの「愛するということ」を読み直した。

 

彼がすごく昔の人のように思う。

彼の持つ偏見に嫌悪もする。

だけど時代だったのだろうか?

私は今この地点に立っていなくても

この思考を保つことができるのか?

何もかも不確かだから、

今自分がどうするかに全力投球したい。

 

ただ、

愛のための修練の項目にはハッとさせられた。

 

経験に基づいた確信と信念が

勇気を出してジャンプして

愛することを可能にする。

 

私はもう一度目を覚ます。

 

汗はとっくに乾いてしまっている。

 

 

歩いていく間に駆け巡った

記憶のこぼれ星から

こんなところにたどり着いた。

 

きっと

歩くことは少しの間だけ

もう終わってしまったと思っていた

 

夢の続きをみることかもしれない。

 


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