日付を書き忘れた夜用の日記から

 

これは夜に書いている方の日記帳。

 

でもいつの間にか日は変わって今は明け方。

 

誰かがスピーカーを通して

歌を贈ってくれてる。

優しいピアノと温かい音階が楽しげできっと

そちらも朝なんだ。

空も多分青いね、きっと。

 

flowers  glow…という歌詞が切り取られて

耳に流れ込んでくる…

花が咲いてるよ、こっちも。

 

 

昔の日記の一文が今、目に飛び込んできて

そのまま思考を揺らしてる。

「歳を重ねるごとに未来が怖くなる」

という事。

 

そう思ってた。

 

今が幸せだからだ。

 

少しずつそれらを過去が持ち去って

飲み込んでいく

そういう感覚があった。

だから、歩いていくほど

過去が取りこぼして残った寂しいものたちで

未来を作らないといけないと思ってた。

 

三年前に一緒に長い時を過ごした

「もも」という家族が

死んでしまった時にそれをはっきり意識した。

 

こうやって、今全てが揃った完璧な状態から

一つずつ引き算されていくのだと思った。

 

置いていかれる。

独りの手触りが触れないでも感じられる。

 

頭打ちになった幸福というものが

あるとしたらそれが今で

あとはゆっくり下降していくだけなのだと。

 

だからずっと、すごく良かった瞬間

次の瞬間にはいつも

もう寂しかった。

 

まだ、「その時」がもう少しそこに

いてくれたら良いのにって。

 

かけがえのない、ガラスの中に、

永久凍土の中に

閉じ込めておきたい人やものたちが

私には多すぎるのだ。

 

これがとても贅沢なこともわかるよ…

 

 

そして今

どう思っているのか。

 

少し前、ある人に出会った。

その人のことは家族以外で言ったら初めて

とても近くに、人として好きだと

感じられた人だ。

 

存在の仕方が

その在る姿が真っ直ぐの木を見ているようで

私とは多分正反対の姿をしている。

 

日が後ろから差した時に

その人に私の影がうつる時がよくある。

異なる性質で乱反射して返ってきた自分の姿に

いくつもの発見があった。

これはまだはっきりとは

確かめることができない

まだ見ぬ未来の姿のひとつかもしれない

こういう瞬間が

この人と過ごす時

いつもあちこちからやってくる。

 

まだ先のことは分からない。

 

けれどもしかしたらこの先

少しだけ一緒にいる人なのかもしれないと

思う。

 

未来が少しだけ楽しみだと感じる事が

古い引き出しの

あったかどうかも分からない場所から

見え隠れする。

 

余ったもので、奪われた残り物で

つくるのではないような

そんな気もしている。

 

宝物が私には多すぎるので

まだ、ふと感情が急降下して悲しくなったり

寂しくなったりするのは分かっている。

 

そう

 

 

りんちゃんが

もう今月を越えられないかもしれない。

犬の1日は人間の1か月のように

こんなのあんまりだというように早い。

りんちゃんという

かわいくて柔らかい生き物の意識に

もう無理をさせたくないという、

りんちゃんを形づくる細胞、微生物たちが

終わりを最短距離でつくるために

食べ物や飲み物を

もう受け付けようとしない。

 

生き物は全て一つのなかにある

二つの意思が息をしてる。

 

ずっと眠っていた

りんちゃんを守るためのもう一つの

「微生物群」が今は目を覚まして

あの子にもう無理はするなと言っている。

 

とても大変な道を歩んでからね、

じゅうにぶんに頑張って生きた

 

はっきりと理解すると

心がひきちぎられるから

今は自分勝手な寂しさが

遠くで漣立ってるのを

そして彼らが指揮するりんちゃんの呼吸を

微かに聞いている。

 

でも多分、

前のように自分自身も死んでしまおうとは

もう思わないとも感じる。

 

悲嘆だけではない

一つだけではない

全ての起こりうる事に対応する感覚は。

 

感謝すべきことばかりだと思う。

ここに立つまでの全部の時間に

立っていたものたちに

人に、環境に、細部の悲しみに

 

 

深呼吸

今、すべき事をして

ただ未来と過去を待とうと思う。

 

いつかたどり着くのだろうか

混ざり合ってひとつになった場所に

 

 

そこにはまだあるのかな?

 

 

全部のことが。

 

 

夜の真っ黒いカバーのかかった日記帳に

朝らしい日記が書けたと思う。

 

スピーカーから流れる歌

もしかしたら

このことを歌っているんじゃないかって

都合よく思う。

 

どうかな…

 

でも

 

きっとそうじゃないけど

 

とても素敵な朝の歌だと思った。

 

 

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