日付を書き忘れた夜用の日記から

もう

なんというか

圧倒される。この悲しさに。

本当に圧倒されすぎて、

とっくの昔にその中で倒れて

溺れてしまったようにも感じる。

 

ああどうなんだろう。

言葉にできる部分もある。

これも同じ悲しみという海の中の成分を

説明していると思う。

 

だけど、少し離れたところに

言葉にできないまだ真っ暗で音のない

場所がある。

その場所を

その真っ黒なシルエットをイメージするだけで

あの無声映画のような

漣立つ浜辺の奥をイメージするだけで

私は怖くて考えるのをやめる

猛烈に涙が出てくるよ

だけどそこから離れられない

多分その奥に君がいるからだ

 

はじめの時から

そして今、終わってしまった後の

この全ての時間が

多分人のためだけにしかなかった事が分かる

 

ペットかあ。

 

りんちゃん。

 

君はどうだったんだろう。

 

何がどうだったのか

今はもう、いや初めから分からなかった。

でも時々自分勝手にわかったような気がして

また分からなくなって

ただ本当に手探りでずっと

ジタバタしていたと思う。

それで、今、これらが自分の、

人間の枠組みの中で

言ってしまえば虚しく行われ続けていて、

今この瞬間も同じだって分かるよ。

 

でも、書かずにはいられない

声を大にして言いたくなる

君は素晴らしい子だったと。

君のことが本当に好きだったと。

君は本当に幸せになるべき子だったと。

 

りんちゃんが

この世界から去って行きました。

 

ここ1ヶ月は、もうほとんどご飯も食べられなくて動けなかった

最後の数週間は毎日の点滴と

1時間ごとの体位変換

30分ごとの水分をシリンジで口に落として

湿らすくらい

 

獣医の先生は点滴には

栄養分が入っていないから

もって2、3日だとはじめの頃に言っていた。

でも、君はそっと息をして

それから2週間頑張った。

夜、家族の誰かが交代でそばで眠ったけれど

朝、君はちゃんと息をしていて

それで目を覚ました。

苦しかったと思う。

夜の音のないひととき

何を思って、どんな気持ちで

朝を待っていたのかな。

呼吸はすごくゆっくりで、

心音も切ないくらい乱れて弱くなってた。

 

今もまだ

君の事を考えると地団駄踏んで

駄々をこねたくなるのは

一緒にいられたのが

1年とほんの少しだったから

去年引き取ってきた時にはもう目も耳も

聞こえなくて

認知機能もかなり下がってた。

 

君はどこで生まれてどこで育って

何を見てきたんだろう

この世界は君にとってどうだったんだろう

 

考えると、

人の感覚の中でしか考えられないけど

すごく辛いよ、

 

虐待とネグレクトが人と君が

過ごした殆どだったと思う

夏は死ぬほど暑くて

縁の下で一生懸命掘った穴の中にいた

でも、数ヶ月に一回様子を見に行った時には

私を見て小さな鞠のように体をぶつけてきた

 

人が本当に好きな子だった。

たくさん傷付けられてきたけど

人を傷つけたりは一度もしなかった

全身であなたが好きですよといつも

言ってくれた

 

人は多分、君の愛に値しないし

この世界もそれに値しない

 

でも、引き取る少し前から

君がぼんやりし始めていたことにも

私たち家族は気づいていた。

でも、すぐには引き取る覚悟ができなかった。

 

今でもぶん殴りたい。

もう少し早かったらもっと楽しい思い出を

あげられたかなって

ほんと不毛なことばかりどうしても

考えてしまう。

 

引き取ってからの

今日までは、次々に不調が出てきて

それとのいたちごっこでもあって

私の至らなさから不便や不快な思いも

させたと思う。

 

少しでも安らかに、

ゆっくりときを過ごしてほしいと

みんなで願い続けていたけれど

結局手探りのドタバタ劇だったようにも思う。

 

だからやっぱり

あっという間すぎて

語れるような穏やかな思い出が

あんまりにも少なくて

それが悔しくて

何か君のことを話そうとすると

すごく言葉に詰まってしまうんだ。

 

本当に悔しいよ。

 

だから

君は愛されるべき子だった

大切にされるべき子だった

幸せになるべき子だった

本当に君のことが好きだったと

大声で言いたくなってしまう。

ずっと叫んでいたい。

届かないものに触れられるかもしれないとか

君の中の埋められなかったものに

無理やり敷き詰めたいと思っているからか。

 

本当にどうかしていると思うけど。

 

最後の日、

朝君をつれて父と病院に行った。

尿閉塞に近いものが起きていて、

尿路感染を示すデータが深刻だった。

だから、先生が膀胱を圧迫して尿を排出させて

輸液をした。

レベルは下がっていたけど、りんちゃんは少し痛そうにもした。

 

施術の後、私はりんちゃんと車に先に戻って

父は会計をしてた。

 

車の中で、

「痛かったね、ごめんよ

帰ってゆっくりしようね」って

そう言ったら、

虚だった君の目に君が突然戻ってきたように

見えた

 

それで

もう長いこと聞くことのなかった

あの可愛い声で

でも少しびっくりしているような声で

3回鳴いた。

一瞬嬉しさと、何かがおかしいかもしれないという予感が走った。

それから体をぐぐっと緊張させた後

ふわあっとりんちゃんの体が弛緩するのを

感じた。

 

あ、りんちゃんが出てってしまう。

そう思った。

次の瞬間には病院に駆け込んで

 

「お父さん!りんちゃんが死んじゃうかもしれん!」

きっと病院内でご迷惑だけど

私は大声でそう言ったと思う。

 

二人で車に戻った時には

りんちゃんは下顎呼吸が始まっていた

 

すぐに

処置室にさっきまで担当してくれた先生が

君を運んで呼吸と血圧を確認した

弱くなりつつあるけど

まだいけるかもしれないと言って

バックバルブマスクと心電図、

それからすぐ心臓マッサージが始まった。

 

でも顔で分かった。

もうその時には、君が出てった事を。

 

先生は汗でびっしょりになりながら

30分以上も蘇生を試みてくださった。

私たちは後ろに突っ立って

音を立てないようにしてた。

でも滝のように涙と鼻水が止まらなかった。

 

あの蘇生はきっと人のためにあるんだと

思った。

君はもういなかったから。

 

「りんりんちゃん、

心臓がもう動きませんでした」

そう言ってびしょびしょで振り返った

先生の顔は辛そうだった。

私たちが、

縋り付いて何か言ったりすると思ったのかな

声が震えて

何か覚悟した顔をしてもいた。

 

父は泣いていなかった。

二人でりんちゃんの手を握って

先生にお礼を言った。

 

先生が、とても逞しそうにも見えた方が

泣き出して

「りんりんちゃんの体をきれいにさせていただくので待合でお待ちください」

そう言った。

 

待合室で私はうずくまってぐらぐらしながら

泣いていた。

「どうしよう、こんな辛いのは」

私はもうどうしようもない事を

取り止めもなく呟いてた。

父がいてくれて良かった。

 

「何がいいとか悪いとか、

タイミングがどうとか

そういうものはない。初めからどこにも。

全部生まれる前からその時というものは

決められてる。

だから、

ただ今日のこの時だったというだけ。」

 

「後悔することもこの先あるかもしれないし

悔しさも、これは良かったとかって思う

肯定感も全部りんちゃんのためにはもうない。

初めからりんちゃんのためだったことなんて

何一つとしてない。

ペットを飼う、何かをどこからか連れてきて

人の生活に繋ぎ止めるということは

そういうこと。

全部人のためにある。

忘れないで。」

 

父がいてくれて良かった。

今この瞬間も

今後も私は悲しみの中で何回も溺れると思う。

それでもこの言葉たちは岸に上がった時

冷くも暖かくもなく

ありのまま

私をそっと待っているんだと思った。

 

次に処置室に呼ばれた時

私は息を呑んだ。

りんちゃんが、もうずっと

毎日体拭き、ベッドバス、消毒をしても

日々落ちきれなかった汚れで

代謝が落ちてただれやすくなった皮膚と毛が

ドロドロで見ているのも苦しかった姿の

りんちゃんが真っ白になっていた。

 

亡くなった、その事実の悲しみ以上に

その美しい姿に胸を打たれた。

今からお嫁に行くみたいだねって

なんでかそんな変なことをも思った。

先生はまだ泣いている。

 

私たち二人はまた

「本当にありがとうございました」

それだけ言った。

 

エンゼルケアは残った人間の心を

救うためにあると分かった。

亡くなったその子のためではなく

人間の受容のためにあるのだと分かった。

だから、

心を尽くしてケアをして下さったことに

本当に感謝してもしきれない。

りんちゃんが、

すごく穏やかに眠っているようにも

見えたほどで

 

誰よりも何よりも君を愛していて

1番ショックを受けるだろうと心配していた母がその死を受け入れることが

できたことにもつながった。

 

君はお母さんの宝物だったんだよ。

 

先生が用意してくれたティファニーカラー、

天国の空の色とも言えるような箱に入れられて

君は車の後部座席に戻った。

私たちが路地を曲がって消えるまで

先生は泣き続け、そして地面に頭がついてしまうんじゃないかというくらい

頭を下げ続けていた。

 

 

君はどこからきたんだろう?

どろんこでうちにやってきた。

でも、去り際はこんな美しい姿で

私たちの苗字を勝手につけられ

私たちの家族としてこの世界を去った。

 

そう思わせてほしい。

 

この今の気持ち全て

ここに書いてあるこの文字の羅列全て

自分のためだけにしかもうないから。

 

こんな優しい子がこの世界にいたのかあ

信じられない

本当に君のことが好きだった

みんな君のことを間違いなく愛してた

それを自分勝手だけど

本当に少しでもいいから伝えたかった

どうにかして

どうにかして伝えたくて

毎日必死だった

 

それができたかどうかは

もう永遠にわからない

 

でも

できることしかできない事も学んだ

 

できることをやるしかなくて

想像は意味をあまり成さなかった

 

本当によく頑張った

うちにすごい子がいたんです。

本当に可愛くて

素晴らしい子がいたんです。

 

できることなら

もう一度会いたい。

 

本当に頑張ったね

本当にありがとう

 

ゆっくり

ゆっくり休んでね。

 

りんちゃん、またね。

 

 

 

 

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うちに連れてきた日の車の中で
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来てから一ヶ月くらい?
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笑ってるみたい。
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来た日と二ヶ月後
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2021年5月 15歳と3ヶ月
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