ある中尉の帰路
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?949年
ヨーロッパのどこか
ある敗戦国の帰還兵のお話を聞きました。
それはとても悲しかった。
1100万人の1人の。
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長かった捕虜生活が終わって
私たちはひっそりと帰路についた
古くてガタガタ音のなるビークルに
三人で乗っていたと思う
同乗したのは
同じ場所で勤めを終えた顔見知りで
1人は同郷の幼馴染
もう1人は他の部隊の中尉だった人
車内での会話はほとんどなかった
だけど中尉が
自分はもともと小さな村で
神父をやっていたと呟いたことを覚えてる
帰ったらまた元の仕事をするか
それとも復興のため街へ出るか
彼は首を振って
窓の外を見たきり
途中
木が鬱蒼と茂った細道で
中尉は降りた
お気をつけて
最後に一度
振り返ったとき
もうどこにもいなかった
私たちに語れることは
一つもない
ただ
それは
どこかにしまって
語らなかった
それだけのこと。
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(絵の中の英文の訳)
日の下で
人が労するすべての労苦は
その身になんの益があるだろう
世は去り、世は来たる
しかし地は永遠に変わらない
日は出で、日は没し
その出でた所に急ぎ行く
風は南に吹き、
また転じて北へ向かい
巡り巡ってそのめぐるところへ帰る
川はみな、海は流れ入る
しかし海は満ちることがない
すべてのことは
人を倦み疲れさせる
人はこれを言い尽くす事ができない
目は見ることに飽きる事がなく
耳は聞くことに満足する事がない
先にあったことは、
また後にもある
先になされたことは、
また後にもなされる
日の下には新しいものはない
...
これは、コヘレトの言葉で
聖書に出てくる節です。
僕はキリスト教ではないけれど
この言葉がとても好きだ。
初めて出会った時、聖書の言葉じゃなくて普通に誰かの詩みたいだと思った。
見ることに飽きず、聞くことに満足しない
この言葉たちは、進む力を与えると同時に
終わりはないという
残酷な一面を語ってる。
1100万人が、それ以上の無数の人たちが
一人一人何を見たのかは
僕にはほとんど知る由もないけれど
それは想像を絶する
深い傷を残して
それをみんな抱えてそれぞれの形で
あの後進んだり止まったりやめたり戻ったり
そうしていまに至っているんだと思った。