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今年は金木犀の匂いがすごいね

母がそう言った

確かにそう

ほんの少し窓から顔を出せば

花束の中に突っ込んだみたいな

そんな錯覚を起こすくらい

 

でも不思議

僕の家には小さな金木犀の木が一本だけ

だから匂いもかすかだったのに

 

そしたらそれは

最近引っ越した隣の家の

広い庭の

たことないくらい大きな金木犀だった

 

でもこんなに強く香ってたのは

初めてだと思う

僕たちはその時初めて

隣の庭に金木犀があるって知ったから

 

その庭はもうすぐ更地になって

マンションが建つ

 

もしかしたら金木犀は

これで最後だって知ってるからかもね

 

誰かがそう言った

 

なんて感傷的なんだろう

その時、悲しくなると一緒に

少しだけそう思った

 

それで

 

さっき仕事が終わって家に着いた時

遠目から隣の庭をもう一度見た

 

前におすそ分けして貰ったことのある

すごく酸っぱい柑橘の木

もう黄色くなってて

今年ももう少ししたら

僕の家の敷地にいっぱい落ちてくる

 

あんまりにも大きな渋柿の木

シャシャンボの木

たくさんの椿の木

そしてあの金木犀

 

だけどみんなもう切り倒される

 

初めてあの庭に

どれほどの生き物が生きてるか

初めて意識したと思う

 

そしたら急に

僕は動けなくなった

突発的に

涙が一気に上がってきて

自分が声をあげて泣こうとしてる気がした

 

だけど

もう1人の

いつもの自分が

それはお前変だぞって言っている

 

僕の家を建てた時だって

世界中のどの家を建てた時だって

何かを切り開いて 更地にしてる

 

有無を言わさず

生物が排除される事なんて

いまこの瞬間にどれほどでも起きてて

僕はその恩恵にあずかってる

 

だから

こんな死ぬほど悲しい気持ちは

矛盾だらけで

本当じゃないのかもしれない

 

何か勝手に

自己満足で感傷的になって

自分は彼らを思いやることができるんだと

自分の気持ちを整理するためだけに

泣きたがってるのか

かわいそうだと思って泣ける

自分が好きなのか

 

それはまったく変だ

 

そこまでもう1人がまくし立てて

僕は涙がこみ上げて

喉の奥の方がぎゅってなってるのを

全部押し殺して

 

この気持ちを検証してから

どうするか決めようと思った

 

同じことが並行して

際限なく行われ続けてるのに

そのひとつを

まるで綺麗な物語みたいに取り上げて

彼らに健気な心があると勝手に想像して

なんで悲しまなくちゃいけないんだ

そんなのはあべこべで偽物で

冷静になればそんな自分に少ししらける

 

いつもの僕が腕組みして説教してる

 

その通りなのかもしれない

 

だけど

 

そんなんどこでだって起こってるし

そうやって自分の生活は成り立ってるんだから

 

こんなふうにまったく突き放して

気にしないのは

そういう人間は

なんとなく嫌だと思った

 

矛盾の上に立ってると思う

いつだって

 

だから正しい行動は

全て確実ではなくて

境界は曖昧だと思う

 

だけどどこへも行くことができない

 

もう一度

あの庭のことを思い出す

 

どういう感情も当てはまらないけど

だけど

揺さぶられて泣いたりするのを

そういうのを殺すのはやめようと思った

心のどこかでその自分を

偽善者だと感じたり、しらけて嫌になったり

そうしながらでも

 

 

どういう人間になりたいだろう

 

全部分からないけど

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