ガラパゴスゾウガメの庭

深夜に目が覚めたから

少しだけ窓を開けて絵を描いてた

 

そしたらすぐ外、

空き家になった隣の家から

まるで誰かが歩いてるみたいな音がした

 

僕はあれが何か多分知ってる

隣の家の人は先週引っ越した

 

大きなお屋敷みたいな家の広い庭には

小さな池が2つあった

 

高い塀が僕の家との間にたってるから

普段は見えないけど

小さいとき庭の柿を採りに

招待されたときに知ったんだ

 

上品なおばあさんが一人で住んでいる

 

彼女の2つの池には

亀がいて、

もうずっと長い間放し飼いにされてる

餌も世話もしていない

飼ってるのかな

気づいたら住み着いてたのかもしれない

 

去年庭に招待された母は

亀がかなり成長してて怖かったと言ってた

 

僕はその亀を

小さいときに一度見たきりのそいつを

ガラパゴスゾウガメだって勝手に呼んでる

 

先週引っ越したとき

おばあさんは亀を置いていったらしい

荷物だけ持って娘のマンションへ

だから庭も家も

まだ誰かいるみたいにそのまま

 

亀はひとりぼっちで多分そこにいる

ずっとおばあさんと

一人ずつで生きてきたから

彼にはなんてことないのかもしれない

 

朝方は眠っていて

深夜になったら庭を闊歩してる

 

あの庭は

世界から完全に隔離されたガラパゴス諸島

 

足音は続いてる

 

君はこの後どうするの 

 

もう数ヶ月もしたら

家は取り壊されて

来年には3階建てのマンションが建つらしい

 

父は僕らの家に

陽が当たらなくなるから

どこかの役所に反対届けを出すって怒ってた

 

それもしばらくしたら

やっぱりご近所さんとは

仲良くやった方がいいって取り下げてた

 

陽が当たらない

昼間でも薄暗い我が家を考える

 

僕は自分のことばかり考える

ぼくたちは

 

亀はあのガラパゴス

何も知らないで

誰も責めたりしないで

ひとりぼっちでいる

 

彼はどうするのかな

 

まだ足音が聞こえてる