湿原に行った時のなんでもない記録
そこは山奥で
あまり有名ではない小さな湿原。
入り口は灰色のフェンスにチェーンがかかってる。
「自由に入り、帰りにはチェーンを元どおりにするように」
その通りにする。
弱い雨が降ったり止んだりしてる。
空の色が減るほどに
花と草木の色が強く浮かび上がってくる。
遠くの方まで木を組んで作られた道
誰もいない
不思議な感じがする。
なんでか分からないけど
雰囲気があって
一体なんの雰囲気なのかも分からないけど
すごくいい感じだって思った。
雨が強くなってきたから
カッパをかぶってただ立ってた。
雨粒が反射して急に緑が光り出したように見える。
湿地にいた虫やカエルが一斉に鳴き出す。
僕は消えた。
実際は消えてない。
そもそもさっきから一歩も動いてない。
ただそんな感じがして
そうなったらいいのにって思った。
なんでか分からないけど。
でもいい感じだった。
そこで出会った木や
黒松の幹を覆ってる苔や
山藤や名前の知らない花
雨に濡れている蜘蛛の巣
綺麗で
きれいだって思っていたんだけど
なんできれいだと思うのか同じくらい考えてて
多分その時の感情とか
必要でないもの
または価値観感性
他にもたくさん
それを貼り付けて
貼り付けられた加工品を見ているからなのかなって思った。
でも、そう思ってから
そうじゃないといいなとも思った。
帰りは助手席で
ナビゲーション係をしながら
それについて少し話して
気づいたら眠ってた。
そういえば、
湿地を出る時
びしょ濡れになりながら
灰色のフェンスを閉めて
元どおりチェーンをかけた
少しほっとする。