脳裏にあるもの

その展覧会は1995年3月にハンブルク社会研究所によって企画され、行われた。

 

 

1941年ナチスドイツのソビエト侵攻、

東部戦線において行われた 戦争犯罪行為。

捕虜や一般住民、

ユダヤ人に対する虐待や虐殺、

 

これらに関与していたのは

戦後のニュルンベルク裁判で

犯罪組織として訴追対象となった

親衛隊や特殊部隊、警察大隊だけでなく

一般の兵士達(ドイツ国防軍)も含まれていた。

 

この事実を、写真や残された資料をもとに

取り上げて展示がおこなわれた。

 

「絶滅戦争  国防軍の犯罪1941-1944」と題されて。

 

これはドイツやオーストリアで大きな議論を巻き起こした。

何故ならば国防軍問題は、

ほぼ全てのドイツ人に何らかの形で関わりを持つことになり(家族や親戚、自分自身だから)

戦後ドイツ社会のタブーであったから。

 

昨日見たドキュメンタリー

戦争の彼方=Jenseits des Krieges は、

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1995年10月18日から11月22日までウィーンでこの展示会が開催された時、

そこに訪れた人々に

「当時あなたはどこで何をしていたのか?」

と問いかけ、それに答える様子を撮ったもの。

 

解説や再現映像、音楽は一切ない。

ただ、人々が語るだけ。

 

だけど

衝撃だった。

 

展示の開催地ウィーンのあるオーストリア

1938年にナチスドイツの進軍により3月31日に

ドイツに併合された。

オーストリア国民の多くがそれを支持したともされている。

そして、オーストリアの若者はドイツ軍に招集され派兵されていった。

 

 

このドキュメンタリーに出てくる人の

ほとんどは、おそらくもう

この世界を去っている。

 

ドイツ国防軍兵士、元赤軍兵士、元連合軍兵士、家族、ユダヤ人、市民。

 

彼らはそれを見に来て、

インタビューを受けた。

 

そこで語った一人ひとりの目を通して

見ていたもの。

 

当時のそれぞれの立場や

複雑な思想や感情、生活が

ある部分は浮き彫りになっていった。

 

 

そして

多くが一人きりで来ている元兵士達でした。

声を荒げて、あるいは静かに語った事。

語れなかった事、偽った事。

それでも何かを確かめたくて足を運んだ。

 

見たものや、した事を自分の中に押し込めて

きた事。

その混乱や苦しみは顔に刻まれていたと思う。

 

そしてそれはあまりに大きすぎたけれど、

心を保って生きるために

いくつも理由をつけたり

いくつかを閉ざしたり、

 

しかしそうすることもできずに苦しみ続けたり

 

それぞれがそれぞれの戦後を生活していた。

 

展示会は

もう一度それらをこじ開けるものだったのかもしれない。

 

 

一人ひとりがインタビューに答えた事は、

それを見ている私たちに対しての疑問の投げかけでもあった。

 

誰が誰を裁けるのか?

ではあなたなら何ができなのか?

被害者と加害者の境界線はどこなのか?

誰が悪なのか?

 

無数の…

 

 

 

だけどその答えがわからなくて苦しい。

 

 

 

 

語った言葉よりも

過去の映像を

まるで今そこでもう一度起こっているかにように

鮮明に見つめながら話す

それぞれの表情が焼き付いて離れない。

 

 

 

 

国防軍兵士

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元空軍兵士
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国防軍兵士

(彼の表情は最も忘れがたいものでした。)
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「実際に経験した事をもう一度見たくて。

これは100%正確だ。

我々が村を占領するたび、彼らは志願者を募った。応じたものは得意満面で

20人撃ち殺したぞってね。

それから

ポーランドのピンスク、広場に絞首台があって人々がぶら下がってた。
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私は一度教会に行ったが、住民は皆 僕を憎しみの目で見た。まるでクズを見るように。

 

当たらずも、遠からずさ」
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国防軍兵士
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国防軍兵士と元ドイツ少女同盟のリーダー
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展示は嘘だと主張する元兵士を問い詰める一般市民
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国防軍兵士
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父親が従軍していた娘
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ロシアに暮らしていたオーストリア人女性。

彼女の夫はスターリンの粛清によって戦前に銃殺されている。
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国防軍兵士
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当時12歳で近くにあった収容所での一部始終を目撃している女性
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赤軍兵士
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国防軍兵士
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第6軍に所属し、スターリングラードにいた元兵士
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兵士だった父親を亡くしている女性。

この展示を信じろって言うならば私は首を吊ると話した。
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国防軍兵士

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僕は始めから終わりまで東部戦線にいたんだ。

細かいことは省くけど、人はいつも

「何故、何もせずに見ていたんだ?」と問う。

私も自分自身に毎日問うている。

25歳の普通の男が逃れるために何ができたか。と。

脱走は論外だ。逃げるったって一体何処へ?

 

多くのことを見たはずだ。

 

前進してたら突然民間人が40-50人護送されるのを見た。彼らは何処かへ連れ去られてしまった。

収容所に連行される途中だったんだ。

彼らの身には何か起こったに違いない。

ソビエト進軍中僕らは何度も国土を荒らし回った。前進したり後進したりして…

僕らの通った後は焼け野原だった。

僕は自分自身に問うた。

何故ロシア人は僕らを皆殺しにしなかったのかと。…僕らはあんなに酷いことをやったのに。

 

今だから簡単に言うけど

あの大惨事を避けるために何が出来たか、未だに回答を見つけられないんだ。

 

だってまずソビエトとは言葉の壁がある。

ロシア人に対して何か手立てはあったのか?

何もない。

憎しみから即刻撃たれていただろう。

「私は正直な民主主義者だ」とでも?

私は1938年に召集された。

まだウィーンが戦争に突入する前だ。

その後戦争が始まったんで戦わなければならなかった。

個人にはどうしようもないだろ?

答えを教えて欲しいよ…

みんな言う、逃げりゃよかったって。

一体どこへ逃げるんだ?

 

僕にはオーストリア併合は占領だった。

社会民主党として育てられたから。

ナチなんて論外だった。

だけど逃げ道がなかった。

 

そして未だに答えを見つけられないんだ。

 

僕の信条なのに

 

これらを見ると…

恥ずかしい思いをどうすることも出来ないよ。

 

 

引用や参考文献

・戦争の彼方 Jenseits des Krieges

:ルート・ベッカーマン監督

国防軍の犯罪と戦後ドイツの歴史認識

:田中 潤

・ドイツ陸軍とSS特別行動隊

:吉本 隆昭

 

展覧会のカタログ

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