戦場のメリークリスマス

 

 

先日、帰宅すると母が

20歳の時に買ったらしい 戦場のメリークリスマス

レコードをかけていました。

 

 


f:id:ellesky28109:20190224215114j:image

 

うちにあるレコードプレーヤーは

とても古く、操作がかなり面倒なので

滅多に使う人がいないから

誰かが意を決して回すときは貴重で、

ついリビングにみんな揃って耳を傾けてしまう…

 

針を置いた時の、あのこもった「ボッ…」っていう音。

それからサーっと沈黙が流れたあと、

聴いたことのある音楽。

Merry Christmas, Mr. Lawrenceだ。

シンセサイザーの音が

独特で(アレンジされたピアノバージョンしか聞いたことなかった)

天井にぶつかって跳ね返った、

尖ったり 摩耗したりした音が

内臓に響いて混ぜかえされるみたいな感覚にどきっとした。

 

それで、この曲が使われてる映画も観てみたいと思った。

 

 

観終わって、まず

…僕が想像してた メリークリスマスとは全然違ったこと。(かなり能天気な想像をしていたと思う💦)

 

1942年、ジャワ島にある

日本軍管轄の連合国軍捕虜収容施設が舞台。

そこを取り締まり、またはそこで囚われている人々を描いたもの。

 

 

一番最初の場面から衝撃を受けて、

複雑に入り組んだ個人の思想や過去、

抑えられた表現に戸惑ったり

自分の理解が追いつけない焦りを感じるところもあった。

 

だけど、エンドロールの後もずっと

彼らの眼差しや

画面に映らない心の描写の複雑さに

丸ごと呑み込まれて、打ちのめされてる。

 

なんでかはっきりしないけど

思い出すたびに涙が出そうになったり

ああだったんじゃないか、こうだったんじゃないかって

掘り下げては

この作品の底のない深さに驚いてばかり。

 

 

「影の獄にて」

この映画の原作です。

f:id:ellesky28109:20190224215153j:image

 

自分では答えの出なかった

いくつもの思いを確かめたいと思って読んだ。

 

昨日の夜は

もう本当に胸を打たれてうずくまってしまうほどの衝撃を受けていたんだけど、

 

一日経って、ほんの少し落ち着いたので

やっとこれを書いています。

 

 

この本は…

自分の限界だった考察力や、想像力を

全部崩してもう一度再構築した。

想像のすべてを超越してたと思う。

 

映画の補足を、という気持ちだったけれど

全部が新しくて

自分はそれを全部知らなくて

押し寄せてくるものに

目眩がする本でした。

 

あの映画で分からないと思った事を

僕は言葉に置き換えて、

何か当てはまるものを探し当てて

理解したいと思ってた。

 

だけどそこにあったのは

言葉にはできないものだった。

 

 

 

今現時点の全ての行動や心は

途方も無い過去と未来が端と端をもって

振動させている。

 

現在にしか、物理的に触れることができないし

三者はある人の語らない過去や未来は見ることすらできない。

それは果てしなく積み重ねられ

理解しなければ

その人を突き動かす今をも知る事は出来ないのに。

 

だけど

不思議なことに

ある瞬間、ある二人、ある空間

その細長い隠された糸が

突然に、一瞬のうちに

始めから最後まで絡まり合う時がある。

 

それはひどく脆かったり

あるいはあまりに強靭だったりする。

 

そのことに気づかないまま

人は

自分の理解の追いつかない自分自身に戸惑ったり

道に迷ったりする。

 

セリエ(セリアズ)は

最後にそれを分かっていたのかもしれない。

彼の長くて壮絶だった道の最後に。

f:id:ellesky28109:20190224190734j:image

 

そして

目に見える幾多もの境界線が横たわっていた

あの時

信仰、偏見、地位、国、言葉、

そして乗り越えられないそれぞれの苦悩

裏切り、罪悪感、使命、名誉、絶望

そこに戦争がやってきてさらに無数のラインを引いていった。

 

だけどこの本を読んではっとした。

目に見える超えることの出来ないとされている

全てのものの間を

心だけはいつでも自由に行き交っていたという事。

(時に、信じ込まされている思想にそれを操作されてしまうことがあるのも確かだけれど。)

もし航跡雲のようにそれらの足跡を見られるのなら

きっと無数に張り巡らされた行き止まりの一つもない心たちに気づくのだということに。

 

だから

あの本に、あの映画に出てくる人々は

そうやって行き来し、

そして今、

僕はそこに残った足跡を辿ってるんだって。

 

この本には

知らなかった感覚や

知らないままであろう感覚があった

自分が打ちのめされるばっかりで

それを経験したり

ましてそれを本当の意味で理解する事すら

おそらく出来ない事に

いまだにショックと

そこに辿り着いている人々に対する畏れ多さ

自分でもよく分からないけど

羨ましさとかいろんな感情が今ぐるぐるしてる

 

どうしてこんなにも

知らない事、知らない感覚、知らない言葉ばっかりなんだろう。

もっと…

知る努力をしたい。

 

心を揺さぶってくれた

この映画に、

そしてこの本に出会えて良かった。

 

 

 

 

セリエが歌った弟の歌

ハラの祝ったローレンスと同じ神様の誕生日

ヨノイが育てようとした花

 

空のずっと向こうの

もう一つの青い空

いくつもの航跡雲

それはどれほど時間が経っても

消えることなく増え続けている。

 

目を凝らせば今、

 

彼らはそのどこかにいる。

 

 

 

f:id:ellesky28109:20190224204806j:image