The Making of Me

 

寒くなると思い出す

いつか描きたい人

 

 

19歳の時のこと

あの人は僕を嫌ってた

それは明らか

だけど僕だって他に行く所がなかったし

そうやって結構きつい一週間を過ごした

 

周りの人たちは

気難しいから仕方ないよ

大変だけど頑張って

そう言った

 

実際大変なのは彼女自身だったけど

みんな初めてばかりで

緊張の塊だった僕に気を使ってた

 

あの人は

しょっちゅう苦しそうで

だけど酸素カニューレをつけるのを嫌がった

だから片時もそばを離れずに

外しちゃった酸素をせっせとつけたり

流量を上げたり下げたり

 

挨拶と

長い長い

無言の時間

 

もうよく思い出せないんだけど

とにかく隣に突っ立ってた

 

ああいう一対一の長い長い空間は

学生の特権だったって

その後死ぬほど思い知らされたけど

 

全ての答えはそこに多分あった

 

あの人の背景には

ものすごい過去があって

それで今に至っては

ものすごいめちゃくちゃに

病気が支配してる

 

僕は彼女と話せない分

彼女のことを片っ端から調べて

黙ってる間も

ずっと心の中で会話してた

 

足を下げると息が苦しいって

ポツリ

こっそり機材室から足台を失敬して

後で先生たちにしかられた

 

でもその時初めて

ほんの少しだけにやりとしてくれた

そんな気がする

 

それからまたしばらくして

ある日

彼女の内側にある

大きな湖に溺れそうになった

一番底の方で

みたのは

そびえ立つ要塞とそれを囲う門

僕はそれに触れたような気がするけど

中には入れなかったと思う

 

窒息しそうになって

水から上がった時

なぜか涙が止まらなくて

あの人は

 

なんであんたが泣いてるの

 

そう言った

 

それから僕たちはお互い

顔を合わせるたびにいちいち泣けてきちゃって

何だかちょっと変だった

 

だけど2日後に最後の日があって

僕は勝手にあの人の日常に現れて

能天気に隣に突っ立って

あの恐ろしい苦しみを

ほんの少しも肩代わりできるわけもなく

勝手に消える

 

自分はまた普通に幸せな日常に戻る

彼女はまたその後の人生を生きる

 

仕方ないけど

自分が恐ろしく無神経で

中途半端か

 

後日

電話があって

人伝てに聞いたことがある

 

彼女は僕がいなくなってから

ずっと僕の話をしてるって

寂しくて寂しくて

仕方がないって

気力がなくなったようだって

 

私のかわりに全部泣いた人は

初めてだったとそう言ってた

 

それで

 

彼女はもういない

心臓はあんなに大きくなってたから

肺はあんな深い海につかってたから

 

心に要塞をもってる人がいること

 

身体を支配する病と

その要塞の深いつながり

 

自分の無力さ

無神経さ

自己中心性

 

誰かの人生と自分の人生が

突然交差して

それが終わったらもう二度と会わないのに

容赦なく確実に互いの距離を広げながら

人生は続くこと

会うはずなかった人

だけど出会って

それでもう絶対

この世界にいないと分かってる人

でもまるでまだそこにいるかのように

心臓を掴まれてること

 

それは

それが生きてるということだ

物理的な消滅を超えること

 

あの後僕は

沢山の人達の人生に

突然割り込んで

期間が終われば勝手に去ったけど

あの人のことが

結局ずっと忘れられなかった

高い高い門の前に

あのあと夢の中で何度も立った

最後の研究も初年度に会ったあの人の事

それで今でも思い出す

 

寒い12月

車椅子のあの人と冬の雲を無言で見てた

 

うまく言えない

 

いろんなこと

本当にいろんなこと

 

 

僕をつくったひとだ